たまたま入った週末の東京出張。 そんな数日前の記憶をたぐりながらオレは新橋駅の近くにいる。 時間は午後7時。 オフ会開始までは30分程ある。 7時半きっかりに店に入ると決めていたオレはじっと時計を見た。 さっきから心臓はここ数年で一番の高鳴りだ。 やべぇ、めちゃめちゃ緊張する。 オレ一人だったらどうしよう。 飛び入り参加を考慮して店は5人もの予約を取っているのだ。 絶対無理だって。 飛び入りなんてあるわけない。 うまくいって3人。 ドタキャンが入れば2人、もしくは1人・・・・・。 オレは思わず店に電話した。 オレ:「予約したプロドー株式会社の者ですが。」 店員:「ああ、5名で座敷でお取りしてますよ。」 座敷?! オレ:「いえ、あの・・ちょっと社員の仕事の事情で・・3、4人になるかと・・。」 店員:「ああ・・・それならテーブルでもよろしいですか?」 オレ:「ええ、ええ!ぜひそれでお願いします。」 飲食業でのバイト経験があるオレにとってだ。 予約した人数が集まらずに座敷を確保する客なんてのは軽蔑の対象だ。 それは避けておきたかった。 弱気・・・あくまでも弱気なオレ。 なぜにこうまで弱気なのか? 飲み会大好きなオレだからこその理由があるのだ。 オレにとっての飲み会というものの存在の大きさがそうさせるのだ。 酒の場が盛り上がらないなどということはあってはならないことである。 だが。 だが! 今回のオフ会にはあまりにも不穏な空気がたちこめている。 黒猫が背中にカラスを乗せてオレの下駄の鼻緒を喰いちぎって走り去った。 そんな不吉な予感が充満しきっているのだ。 オレは時計を見つめている。 烏森(カラスモリ)神社というこれまた不吉な場所で。 もうすぐ7時半だ、そろそろ行かなければ。 しかし、足がすくんで動かないのだ。 時計の針が7時29分ちょうどを指したときに足を踏み出そう。 そこまで覚悟を決めてやっと一歩踏み出せた。 そして7時半ちょうどに店についたのだ。 店員:「プロドーの方ですか。2階へどうぞ。」 そう言われ、2階へ行くとそこはもう人で一杯だ。 店員も忙しそうにしている。 見渡したところテーブル席に空きはない。 ん?ということは・・・・。 すでに誰か来ているということか?! さらに一つのテーブル席に目が行った。 その席では男性が一人だけ、携帯をいじっているではないか。 もしかして、もしかしてオフ会参加者? しかし、いきなり 「プロドーですか?」 と話しかける勇気がその時のオレには出なかった。 オレは再度2階の店員に話しかける。 オレ:「プロドーの者ですが・・・。」 するとなんと。 オレは一度断ったはずの座敷へと案内されたのだ。 そしてもちろん、その座敷には誰一人座ってなどいない。 ああ、やっぱり・・・。 オレは座敷に座り、一人で飲む覚悟を徐々に固めた。 テーブル一杯の料理とビール、焼酎。 その写真を撮ってここに公開する企画を練り始めたのだ。 数分そんな時間を過ごし、そろそろビールでも頼もうかと思ったその時。 なにやら店員が騒がしい。 そして店員の一人がオレにこんなことを言ってきた。 店員:「プロドーさん、もうこちらに来てますよ。」 え? そしてオレはテーブル席で一人携帯をいじっていた男性の元へと案内された。 店員はみんな笑っている。 どうして気付かなかったの?とでも言わんばかりに。 あ、そうか。 店員からすればオレ達は同じ会社の社員だったんだ。 顔見りゃわかるだろうと思って2階へ通した後、特に案内もしなかったんだろう。 ああ、そういうことね。 と納得したのもつかの間、オレは一人の男性と同じ席に座った。 オレ:「初めまして。ところであなたは誰ですか?」 こんな会話が成立するのはオフ会だけであろう。 こうしてオレはこのオフ会決行の最後の立役者「らがぷー」さんとの運命的な出会いを果たした。 中編へ続く |