とある日曜日。 その日はTOEICの無料模擬試験を受けることになっている。 もともとは資格取得プロジェクトTOEIC編に書いていた話だ。 なぜわざわざこちらに書くのか。 これはいわゆる格上げ扱いだ。 そう、オレもまさかこんな風になるとは思いもしなかったのだ。 時は試験前日。 オレは何かと忙しくしていた。 そのため明日が試験だということをうっかり忘れかけていた。 そんな折、突然あの電話が鳴ったのだ。 まったく心当たりのない番号からである。 こういう場合多くの人は薄気味悪く感じるようだがオレは違う。 何か不思議な胸の高まりを感じるのだ。 これが非通知設定だったりしたら期待感は最高潮なのだが。 少しドキドキして電話に出るオレ。 「もしもし、憶えてますか?明日はTOEICの模擬試験ですよ。」 ちっ、あの英会話学校の女の子か。 オレはもう、それはもう、ガッカリだ。 どれだけ親しく電話をかけてきてもこれは営業の手口である。 さらにその子が全く好みのタイプではないことがそれに拍車をかける。 まあオレもそのシステムを利用させてもらうだけなのでよしとしよう。 ちょうど英会話を習うことも検討しているところだ。 本当にいいものならば金を出してもいいだろう。 オレは待ち合わせの時間を再度確認してその電話を切った。 もちろん行くつもりだ。 それに対しては何の問題もない。 ただ、今のオレには全く別の大きな問題があったのだ。 今の所持金、3000円。 次にオレの元に金が振り込まれるのは月曜日。 要するに明日、日曜日はこれだけで乗り切らなくてはいけない。 まあ普通に考えれば余裕でいけるだろう。 しかし、オレにはさらに問題が積み重なっていた。 オレは明日、TOEIC模試を受けたあと本を買うつもりだ。 その本で勉強して日曜日の午後は有意義に過ごすつもりなのだ。 何しろまだ部屋にはインターネット環境がない。 本でもないと一日を全く無駄に過ごしてしまうのだ。 飯代より本代。 そんなハングリーなプロ意識に陶酔していただけかもしれない。 とにかく明日は本を買う。 それはもう決めてしまったのだ。 明日一日の食費、本代・・・ 足りるだろうか。 そんな恐怖におののきながらその日は寝た。 日曜日。 オレは早起きして待ち合わせ場所へ向かった。 新宿駅のそば。 ここには英会話学校が所狭しと並び立っている。 そしてオレが到着したビルは・・・。 めちゃくちゃ小さなビルだった。 おい、大丈夫か? いつ夜逃げされてもおかしくなさそうなビルだ。 大手英会話学校の突然の倒産。 このようなニュースがあったのは何年前だったか。 これを思い出さずにはいられない。 だがオレは逃げるのは嫌いだ。 とにかく中にズンズン進んでいった。 エレベーターで目的の階に上がるとそこにはあの女の子が。 進められるままに奥の小部屋に入る。 すでに4人くらいスタンバっている。 皆、この試験を受けるのだな。 学生か?全体的に若い。 オレ、おっさんだな。 おっとそんなことを言っている間にもう試験は始まるみたいだ。 目の前に問題用紙が配られた。 ボロボロの問題用紙。 「問題用紙には書き込みをしないでください。」 ってこれ絶対に使いまわしだな。 まあいい、さっさと受けて帰ろう。 試験が始まったので問題用紙をめくったオレが見たもの。 それは前の受験者の置き土産。 答えめっちゃ書き込んでるんですけど。 書き込むなって言われただろーが、この非常識! 確かにこの答えを参考にしたら高得点が出るんだろう。 しかし、オレは今の自分の実力を知りたいんだ。 こんなくだらないところで見栄はっても仕方ないんだよ。 オレは生真面目なことに書き込まれた解答を消した。 ページをめくる度、そこに書き込まれている解答を消した。 そしてあくまで自分の実力を知ろうとしたのだ。 しかしこの試験。 問題文も英語で読まれるんだな。 一体いつ問題が始まったのか、どこまでが例題なのか。 かなり注意しておかないとそんなことすらわからない。 前半のリスニングは半分以上が運任せ。 後半のリーディングになりようやく少しは力が出せた。 といっても受験生時代の比ではない。 おとろえたものだ。 しかし、テストも終盤を迎えた頃。 あることに気付いた。 このペースじゃ絶対に最後まで終わらない。 何これ?時間全然足りないじゃん。 あせるオレを他所に時計は刻み続ける。 ヤバイ、ヤバイって。 ま、待て。 こんな時は焦るのが一番よくない。 まず落ち着くんだ。 オレには何ができる。 できることを一つずつ、少しでも多くこなすんだ。 オレにできることはまだあるはずだ。 そして逆境に立ち向かうオレは一つの光明を見出した。 そう。 どうしても時間が足りなかった最後の数問。 オレは前の受験者の解答を丸写しした。 おい、それ意味無いやん! そしてなんとか全問回答し終えたオレ。 採点の間の30分程時間が空くとのことで外に出た。 もう昼の1時だ。 腹も減ってきた。 しかし、今日は昼飯を喰う金など持ち合わせていない。 仕方なくブラブラと歩き始めるオレ。 わき目にはホームレスのおっちゃんが道端で弁当を食べていた。 500円はくだらないと思われる代物だ。 ほんの少し、本当に少しだけ。 それを奪い取って逃げる自分を想像した。 後編に続く... 今日の一言 ここからが本番 |