直接このページに来た人は入口から入ってください....

職探しプロジェクト(第13部)

〜 嘘800万 〜



面談の日。
3時からという予定になっている。

あと1時間くらいか。
まぁかませるだけのハッタリかまして相手がどうでるか待つしかないしな。
そんなに緊張するほどのものでもない。

と、思っていたのはどうやらオレの表層意識だけであった。
2時くらいになると突然激しい腹痛に襲われたのだ。
すぐにトイレに駆け込むオレ。
少しマシになったものの持続的にずっと腹部が突っ張ってる感じがして痛い。
ゆっくり歩かないと痛むくらいだ。
なんだこれ?
オレ緊張してんのか?
それとも昼飯のラーメンにあたったのか?

原因はわからないがもう時間だ。
とりあえず面談の場所、某社のビルへ向かわなければ。
面接担当官のうちの一人の方はM氏と打ち合わせをしにこちらに来ていた。
そこにオレが合流し、面接官の人と2人で向かうことになる。
めっちゃ気まずい。
M氏はそんなオレを面接官に引き渡して仕事に戻ろうとしている。
そのM氏が別れ際に一言。

M氏:「とにかく持ち上げといたから後は君次第だ。」

おお、ありがたい。
M氏はなぜかおせっかいなところがある。
自分の利益に結びつかないことでもよかれと思って頑張ってくれたりするのだ。
そこがまたM氏の魅力の一つになっている。

M氏と別れオレと面接官の2人で某社に向かって行った。
一緒に仕事をしている人からの紹介ということもあるのだろうか。
車の中では多少なごんで話が出来た。
ただここで一つの誤算が。

オレは就職活動において一人称は絶対に「私」にしようと決めていたのだ。
日常生活はどんな相手にでも「僕」、よっぽど打ち解けた間柄なら「オレ」で通していた。
さすがに初対面の人と話すにあたってここは直しておこうと思っていたのだ。
だが、結構なごんだ雰囲気で話してくれるもんだからつい地が出た。
口が滑っちゃったんだ、「僕」って。
一度「僕」を使用してしまうと急に「私」に直すのも違和感がある。
即座に計画は変更、「僕」で通すことにした。
最初から思いやられる。

応接室に通されたオレはさっそくまずトイレに行く。
まだ腹の調子が悪いのだ。
トイレから戻るとすでにもう一人の面接官が待機していた。

ウンコしてましたとも言えず無言で席に着くオレ。

会社の概要や、待遇の話を聞かせてもらった。
保険、退職金、福利厚生、休暇、ほぼ全てにおいて今の会社とは段違いだ。
世界が違う、と感じた。
ちなみにオレ自身の気質は完全にベンチャー志向だ。
小さな会社でリスクを背負いながら逆転の一発を狙うのが好きだ。
しかしこのような世界も一度経験しておく必要があるのかもしれない。
何事も選択しないのと、選択できないのでは大きな差があるのだ。

さて、ここから面接官がもう1人増える。
ここまで同じ車に乗ってきた人だ。
そしてオレのプロフィール、職務経歴、などに突っ込む体制が整ったように見えた。

まず最初に突っ込まれたのは職務経歴より長いプロフィール
え?いけなかった?
アピールすればするほどいいと思ってたんだけど。
そうでもないのかな?
さらに27歳で大学中退と初就職という暗黒時代について。
こんなのは正直に話すしか術はない。
オレは音楽を職業にしようと思っていたこと。
大学はある意味ハク付けのようなつもりで実際どうでもよかったこと、などを話した。
ある程度の理解は得られた、、、のかな?

そこからはずっと開発に関わる話だ。
まず自分の職務経歴を簡単に話してくれ、と言われる。
後から考えたらこれはいたって普通の質問だ。
しかし、まともな就職活動をしたことがないオレ。
しかも転職という自分のそれまでの技術をアピールすることに慣れていないオレ。
そのオレにとってこの質問は予想の範疇を大きく超えていた。

一瞬たじろぐオレ。
しかし負けてはいられない。
何とか最大限のアピールとなるような言葉を選びながら、オレは話した。
内心はもうビクビクだ。
全部事実だけで構成すると決してスムーズに話せないことはすぐにわかった。
もちろんウソは喋っていない。

しかし、方便は使った。

別の開発案件での出来事などを織り交ぜてある程度ストーリーを組み立てたのだ。
ウソではない。
ギリギリだがウソではないはずだ。
これを方便と言うんでしょ?
言わせてもらいます。

しかしその時、面接官から矢のような厳しい質問が来た。
やはり向こうは慣れている。
かなり核心をついた質問だった。
ひょっとするとオレのアレンジがばれているのか?
即席のストーリーは破綻するかに思えた。

なんとか切り返さなくては。
間をおいてはいけない。
どもってもいけない。
即座に適切な回答を返さなくては!
あせったオレは、またやってしまったようだ。

オレ:「そ、それはね・・・・。」

お・・・おい!
それはねって何だよ!
友達かよ!
一気に頭に血が上りかけた。

しかし・・・・耐えた。
多少しどろもどろだったがストーリーは何とか繋がったのだ。
ふぅ〜〜危ねぇ・・・・。

教訓:よくある質問くらい想定してイメージトレーニングしておけ。

この後はいくらかすんなりと進んでいったように思う。
技術を習得するというテーマの話になったからだ。
オレはここでは本当に正直な、自分の熱い気持ちを伝えた。
技術に対して心から興味を持ち、取り組んできたこと。
スタートに出遅れがある分、自分のそれまでの姿からは考えられない努力をしてきたこと。
自分が残業をほとんどしないのは少しでも早く帰って違う勉強をしたいからだということ。
伝えたい気持ち全部は無理だが7割程度は伝わったのではないかと思う。

さて、大方のやり取りが終わっていよいよあの質問がきた。
そう、あの質問。
この時間のためにオレは今日ここにいるといっても過言ではないのだ。

面接:「弊社は年俸制ですがいくらを希望されますか?」

来たか。
オレはひるまない。
今日ここまで結構失敗してきたが、だからといってビビッてはいかん。
失敗なんか誰でもするんだ。
オレは言ってやった。


オレ:「は、700万ください。」


ちょっとビビッた。
そりゃそうだわ。
800は無理だってやっぱり。
総理大臣じゃねぇんだから(総理はもっともらってる)。

そして、オレの予想はやはり必要以上に当たっていたようだ。
700万という数字を出した途端、一瞬空気がおかしくなったのだ。
まずった。
M氏。
いろいろ協力してくれて本当に感謝はしてるけどやっぱり違うって。
800とかいう問題じゃないみたいっス。
700も行き過ぎたみたい。
なんかすんごいピンチなんですけど。

しかし、こういう場面で極上の切り返しが出来てこそのオレである。
一瞬の空気を読んで対応をかえる。
客商売の長いオレの得意とするところだ。
700万という言葉で凍りついたそのコンマ1秒後。
オレは次の言葉で逃げ切った。


オレ:「って言うつもりだったんですよ(笑)」





逃げ切れてね〜〜!!


最後の最後に後味が悪くなったまま、オレはその場を去った・・・・。

続く...


今日の一言

「無理と思うけど一応伝えます」だってさ

花の都
TOP
BACK