直接このページに来た人は入口から入ってください....

大阪物語(第14部)

〜 甘すぎるミルクティー 〜




いつものように9時2分前に会社に到着し、PCの電源ON。
ロッカーに上着をかけにいってから朝のミルクティーを作りに行く。
全てが日常の、なんの変哲もない平日の一日。

しかしオレは平常心を保つのに一生懸命だった。
来てるからだ。
恐らく、社長からの返信メールが。
あの文章の本意がわからない、結局ボーナスはいつ、いくら払われるのかと問うた。
その答えを既に社のメールサーバは受信しているはずである。

いつもよりミルクを入れすぎてお子様仕様になってしまったミルクティー。
それを片手に席につく。
ログイン。
メーラーが自動起動し、数件のメールを受信する。
その中の一つだ。

Re:賞与明細の件

き、きとるな・・・。
オレはこういうとき間をおくのが嫌いなのだ。
共通語なのかどうか知らない、恐らく関西弁だろうが「いらち」というやつだ。
すぐにイライラするというニュアンスである。
緊張状態を保ってられる精神的ゆとりがないのだ。

今回も極度の緊張がゆえに逆に一息もつかず即座にそのメールを開いた。
まず目に飛び込んだ言葉。

「表現がプアーで申し訳ありません。」

オレは意表をつかれた。
いや、見慣れないプアーという表記に関してではない。
今まで何度となく社長とメールを交わしてきた。
その中で常に不満を持っていたことの一つとして

・謝罪をしない、非を認めない。

ということがあったのだ。
人間は実に自分に甘い生き物でどうしても自分のことはひいき目に見てしまう。
例えそれをしない立派な人間であったとしてもだ。
話をしている相手の人間はやはり自分びいきに判断している可能性が高い。
だから他人とコミュニケーションを取るときには気をつけなければいけない。
相手の気持ちを汲んで些細なことでも一言謝ってから話を続けたほうが円滑に進むことが多いのだ。

で、だ。
今まで社長はそれをしてこなかった。
立場上謝罪すれば揚げ足を取られることもあったのだろう。
だからあえてそこのところは突っ込まなかったのだが、やはりこちらとしては釈然としないことが多かった。

それがだ。
どこでこんなテクニックを憶えてきたのか今回はまず謝罪から入ったのだ。
はっきりいってこの一文でオレの不満の半分は解消されてしまった。


誰だ、社長にへんな入れ知恵したのは!?


まずいじゃないか。
この雰囲気でもし言いくるめられたらこっちも怒るに怒れないぞ。

いつもとは少し質の違う不満を胸にオレは続きの文章に目を通した。
メールの文章もいつもよりはるかに明確にわかりやすい。
オレの質問に対して箇条書きに近い形で説明されていた。



・支払い時期について
12月末に支払います。
3月末までにさらに実績が上った者については3月に追加という形で払います。

・支払い額について
賞与額の欄に書かれていた金額(30万円)が支払われます。
3月末の追加はまた別です。
ただ派遣の人に関しては売り上げはほぼ変動がないので追加の可能性は低いです。



・・・・おお、神よ。
オレはそのメールの中に神を見た。
白髪交じりで出っ歯でメガネをかけていたが、紛れもない神だった。

3月末など先の話は今はいい、期待もしていない。
とりあえず12月末にボーナスとして30万円が支払われる。
これが何より大事なのだ。
初めてこの仕事を通じてしてきた努力が報われたという気がした。
オレは社会人になれたのだ。
もうしばらく、この会社でやっていけそうだ。
甘すぎるミルクティーが妙においしく感じられた。



12月27日、給与明細は税引き後計44万円の振込みを知らせてくれた。
一度にこんな収入を得たのは初めてである。
こんな穏やかな気持ちで年の瀬を迎えるのはいつ以来だろうか。

今の仕事もようやくうまく回りだしている。
4月にはすべてにケリをつけて京都の地に戻れるであろう。
またそうなることを祈って長かった大阪物語はここらで終了したいと思う。




追伸

オレはこの進行状況で仕事上のプライベートをたくさんさらしてきた。
だが、最初からここには生活臭を多く出しすぎないという狙いがあった。
だから仕事以外の部分は話題に出してないことが多い。
進行状況の次章ではそのプライベートのなかでも特に「苦悩」にスポットを当ててみたい。
今まで書かなかったオレの悩み、スーパープラスでいられない自分をあえて書いていこうと思う。



大阪物語 完


今日の一言

ホントに残りの3ヶ月無事に終わるのかな・・・



守る者、守られる者
TOP
BACK