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大阪物語(第11部)

〜 わけわかんねぇ、いやホント 〜




「わけわかんねぇ。」

「マジでわけわかんねぇ、なんだこれ。」

新しい仕事に入ってしばらくしてからのことである。
ようやく目の前に残された仕様書を読み終わって呆然となった。

「何?記号???パズル?暗号????」

日本語がほとんど書かれてない。
ほとんどが図、または表なのだ。
そしてその図や表が何をあらわしているのかさっぱりわからないのだ。
第一目の前のシステムが基本的に何のためのものなのかすらイマイチつかめていないのだ。
その上にだ。
データベース、アクセス、オラクル、受発注、バッチ処理。
これらのものは前回書いたように、聞いたことあるから大丈夫だろうと考えていた。


そんなわけあるかいな。


やらなきゃわかんないに決まってるだろう。
何考えてんだ、オレ。
受注、発注、得意先、仕入先、などこれらに必要な業務知識と言われるものの経験もない。

「えらいことになるんじゃなかろうか・・・・。」

最近うすうす自分でも感じてきてたはずなのだがなぜか意識の表層にあらわれることは無かった。
無意識的に感じてたのに感じてないフリをしていたのだ。

なぜか?
これがスーパープラス思考なオレの重大な負の一面なのである。
頭の中は常に前向きなことしか考えなくなっているから、マイナス要素はとことん忘れる、排除する。
そんなものはないと言い聞かせる。
わかりやすく言おう。

アホなのだ。

この一語に尽きる。
いや、確かに

「何かの道で成功を収めようと思えばその道に対してバカにならなければならない。」

という類の言葉も多い。
だけどね。
やっぱりときには重箱の隅をつつくような慎重さも必要だと思うのだよ。

もしかして・・・ヤバイんじゃないかなぁ。
と思い始めていたその矢先だ。
運用担当の女の子から連絡が入った。

運:「ukkyoさん。お客さんから入った注文が仕入先に飛んでいません!10分以内に飛ばしてください!」

(な、、なぁぁにぃ〜〜〜〜!!!!)
とりあえずサーバルームに走った。

てゅ、ち、ちゅちゅ注文を飛ばす?
ど、どうどど、どうやって?
え?メール?
確かどこかでそんな処理してたような。
え〜〜〜〜〜ど、どこだっけどこだっけどこだっけどこだっけどこだっけ・・・・・・。
こ、ここか!
見つけたぞ、このフォルダだ!やった!!


・・・・・・・・てメール送信の実行ファイルが7、8個あるんですけど・・・(泣)
どれかを実行させれば多分うまくいくのだろう、いや本当はそれも不安なのだが・・。
どれだ?当たりはどれだ!?

心境はもう、よくある刑事物ドラマの時限爆弾を停止させる場面だ。
ニッパーを右手に赤のコードを切るべきか、青のコードを切るべきか、はたまた緑か。
まさにそんな状況だ。

時間に追われながら大急ぎで一つずつ実行ファイルを確かめる。
まずファイル名から推測する。
メール送信の実行ファイル名には共通して「FileSendMail」という文字列がある。
ようはファイルをメールで送信しますよ、という意味だ。
その後に暗号のようなものがついているものが多い。
例えば「_bak」とか「_tmp」、「_org」などである。
「_bak」とはよくバックアップ用のファイルにつけることが多い。
これは違うだろう。
「_tmp」もそうだ、違う。
わからないのは「_org」だ。
なんだろうこれは?
さらにファイルの中身で判断しようとしたがこれはどれも似たり寄ったりだった。
残された時間でそのコードの違いを読み解くのは無理だろう。
ここいらがオレの推理の限界だ。

「ふぅ。」

オレは一息ついた。
この作業を間違うことによって発生する事態の深刻度。
回復作業にかかる人的コスト。
自分のここでの立場。
いろいろ考えをめぐらせた上でオレはそれでも一つの結論に至らなければならなかった。

なんとかなる!

どうせこのまま何もしなくても発注が飛ばず失敗になってしまうんだ。
倒れるなら前のめりに倒れようではないか。
だいたい引き継いで初日のオレにこんな重大任務を仰せ使いやがって。
そりゃ間違うこともあるってもんだ、しょーがねぇ!

後半はやや逆切れモードが入っているが半分近くは前向きな理由でオレは、ついに・・。

これだと思う実行ファイルをダブルクリックした。

目の前で画面が立ち上がりざっと文字がスクロールして消えた。


・・・何かが動いた。


今確かに何かが動いた。
漫画なら間違いなくこれで問題は解決している。
しかしこれは現実問題。
いくつかに候補を絞り込んだと言ってもせいぜい確率は3分の1くらいだ。

「まぁ・・・無理だろうな。」

半ば悟ったようにオレはいろいろなものを覚悟して席に戻った。
オレの席の斜め向かいにはさっきの運用の女の子がいる。
もう何が起ころうとも取り乱さないように心の準備は万端だ。
その子がおもむろに口を開いた。

運:「ありがとうございます。ちゃんと送れたようです。」


え!?

な、なんと・・・・。
あまりに予想外の喜びと突然の驚きとでオレは少しパニックに陥った。
思わずオレの口をついて出た言葉は、その後言い訳をするために少しの時間を割かなければいけなかったほどだ。
その言葉とは。

オレ:「うまくいった?なんでだろ?」


続く...


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