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起業準備

〜 会社、辞めます 〜



オレは今、部長と本部長の2人を前にしてとある部屋の中にいる。
退職の意思を伝えたため、詳しく話しを聞かせろということだ。


本部長:「辞めるという決意は固いんだな?」

オレ:「はい。すみません。」

本部長:「次は決まっているのか?」

オレ:「はい。」

本部長:「給料は上がるのか?」

オレ:「下がります。」


通常、外資系の企業での転職は自分のステップアップを意味する。
給与や待遇面などでより良い条件を出してくれたところに行くことが多い。
オレも例外ではないと考えていたのだろう。
だから、もしかするとだ。
給料のより高い会社に移るというのなら、うちはもっと出そう、とか。
そんな展開もありえたかもしれない。
その辺りを探りにきたのだろうが、その読みは外れることとなった。

最初、オレは本部長のいないところで部長に辞める意思を伝えたのだ。
この部長は物分りもいいし、強引にオレを引き止めることはしなかった。
関西の技術者が不足しているため、もちろん会社にとっては痛手だとは言ってくれたが。
そして、その部長が言うには

本部長はきっと1時間以上、かなり強い説得をして引きとめてくる

とのことだったのだ。
だが、この最初やりとりで、本部長の引き止めはその勢いをそがれた。
待遇などの条件面で優劣を決めたわけじゃない。
自分がやりたいことへ進んで行こうとしているオレの気持ちが少しは伝わったか。
本部長の言葉のトーンは完全に勢いを失った。


本部長:「どんな規模の会社だ?」

オレ:「とても小さいですよ。」


別に謙遜したわけではない。
会社の売り上げ規模で比較しても10倍くらい違う。
社員一人当たりに直すと20倍くらいになるのだ。
本部長の目が少し光ったように見えた。


本部長:「そこでどんな仕事をやるんだ?」

オレ:「細かくはまだ決まっていません。新事業を立ち上げる可能性もあります。」


本部長:「新事業ってビジネスモデルはしっかりしてるのか?」

オレ:「具体的にはまだ何も決まって無いので、そこはわかりません。」


本部長の目はさらに輝きを増した。


本部長:「オイオイ!そんなんで大丈夫か?!危ないんじゃないか?」


どうやら説得のポイントを見つけた、と感じたようだ。
会社の不安定さを攻略の糸口にしようとしているみたいだ。
経理はどうなってるとか、社長はどんな人なんだとか・・・。
でもオレは別に怒りはしない。
これはこの人のサラリーマンとしての仕事なんだ。
辞めようとする社員を何とかして考え直させるための。
典型的な会社人間の思考パターンだ。

もちろんそれとて何ら悪いことではない。
会社というものが運営していくにあたって絶対に必要なタイプの人だ。
この人の中で、仕事をするということ、自分の人生を豊かにするということはそういうことなのだ。
安定した会社の中で、できる限り失敗する可能性の低いことだけを選んで行う。
その中で少しずつ給料をあげていくことがこの人の幸せなのだ。

色々と会社のアラをあげようと質問する本部長。
ウソをついても仕方ないから正直に答えるオレ。
本部長の中では、徐々に攻勢は自分に傾いていると感じているだろう。
オレの中の「失敗するかも」という不安がどんどん大きくなっていると思っているのだろう。
そこで、オレはこの言葉を切り出した。


オレ:「とにかく今、この仕事をしたいという気持ちが一番強いんです。」

オレ:「その結果、失敗するのは全然構いません。」


明らかに本部長はひるんだ。
彼の中では仕事をするということは失敗をしないということ。
オレの中では仕事をするということは、自分なりの幸せを掴みにいくこと。
失敗は許容範囲内なのだ。
二人の根底にある価値観が全く違うのだということが少しは伝わったか。

いつもは1時間以上の説得をするらしい本部長。
しかし、今回のオレとの話は15分で終わってしまった。
こいつは説得しても無駄だ、と気付いてくれたとしたらありがたい。

続く...


今日の一言

まだ諦めてない、なんて噂も聞こえてきたり・・・

新年、明けてしもた
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