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起業準備

〜 来たる異国の地(3) 〜



初日のトレーニングが終わると、香港の人たちが食事に連れて行ってくれた。
中国の人は客人をもてなすということに対して日本人以上のこだわりがあるのだろう。
移動のバス代やタクシー代、食事代に至るまで1ドルたりとも使わせてくれない。
そして英語でやりとりされる会話がほとんど理解できないオレに対して。
毎回会話の内容を丁寧に伝えなおしてくれたりする。
なんとも申し訳ない。
英語が喋れるようになりたい。
心の底からそう感じた日であった。

また、食事の時に料理が運ばれた後、さぁどうぞと料理を勧めてくれる。
そして当の本人たちはじっとこちらが食べるのを待っている。
下を向いて目をつむってしまった人もいる。
こちらが料理を一口食べて初めて、彼らは食事を始めたのだ。
ああ、そういえば中国なんかでは客人に先に食べさせるようなしきたりがあるとか、聞いたような聞かなかったような。

とにかく色んな国の人が集まると、自分の常識というのが通用しないことに改めて気づかされる。
シンガポールの人は宗教的理由で牛も豚も食べなかった。
ダシに使っているだけでもダメだそうで、食べるのは魚と野菜だけ。
オレがもしも彼らを受け入れる立場だったら、その辺りの気配りなど絶対にできなかった。
多分、焼肉屋とかに連れて行って。

あなた達が食べれるのはナムルだけなんです・・・。

なんて結果になってヒンシュクを買っていたはずだ。
また、別の日には韓国人の2人とオレの、計3人で晩御飯を食べた。
もともとオレは中国や韓国の人が持つ、日本に対するイメージを懸念していた。
簡単に言えば「嫌われてるんじゃないか?」ってことだ。
変な意地悪されないだろうか、とか今思えばつまらない心配だった。

もちろん中にはそんな人もいるのかもしれない。
だが、オレの出会った人たちの中にはただの1人もそんな人がいなかった。
2人の韓国人のうち1人は日本語を勉強中だった。
中国人には新婚旅行に札幌に行った人がいた。
1年ほど日本に住んでいた人もいた。
香港で日本の商品を輸入して商売をしたいと言っている人もいた。
オレは日本人という理由で、やや他の人よりもひいきされているような感覚を受けたほどだ。

新聞やテレビ、インターネットで知りえることは、全くの嘘ではないだろう。
ただし、それらは全て一つの側面なのだ。
ニュースで見る側面、本で読む側面、ネットで知る側面。
それらのあらゆる側面から、立体をイメージしなくては真実は見えない気がする。
その立体こそが正しい真実であり、それはやはり直に接することでしか得られないと思った。
オレは会社のトレーニングもほどほどに、そのようなことばかり考えていた。

3日経ち、4日経ち。
みんなにとても親切にしてもらいながら、トレーニングは終了をむかえた。
後半になるにつれて、徐々に英語も聞き取れるようになってきた気がする。
といってもまだまだ半分くらいだけど。
オレはみんなとお別れの挨拶をする。
シンガポール人は握手をしながらこう言った。

シンガポール人:「今月末のシンガポールでのトレーニングには参加しないのか?」

オレ:「僕じゃなく別の人が参加することになってて、僕は行けない。」

そうか、仕方ないなということでお別れを言う。

2人:「See you.」

このSee youという言葉はいい。
感覚的には「さよなら」なんだろうけど、直訳すれば「また会いましょう」だ。
多分、彼とは2度と会わないと思う。
それでもまたどこかでお会いしましょうと言って別れる。
いい文化だと思う。
そしてみんなお別れ。
国へ帰る者、仕事へ戻る者、それぞれの日常へ戻る。
オレは休みを取って観光することになっていたので、ホテルへと戻った。

さて、翌日。
オレにはまだやり残したことがある。
一番親切にしてくれた香港のセールスマネージャーに挨拶しに行くのだ。
彼は最終日に病欠していて、お別れの挨拶が言えなかった。
後でメールしてもいいが、オレはどうしても直接お礼がいいたくて会いに行くことにしたのだ。
英語でコミュニケーションしているからだろうか。
普段の自分なら決してできない行動が、結構あっさりできたりする。

オフィスに行くとその人が出てきた。
一体何の用事だろうと思っているようだ。
オレは完全に片言の英語で、自分の気持ちを何とか伝えようとした。

初めて海外に来て、しかも一人でトレーニングに参加してとても不安だったこと。
常識も何もわからないオレに、親切に接してくれたのがとても嬉しかったこと。
どうしても直接お礼がいいたくて、今日もう一度会いに来たこと。

たったこれだけを伝えるのに、ものすごく長い時間を要してオレは話した。
文章になどなっていない。
単語を並べてジェスチャーを交え、どうにかわかってもらっているかなという程度だ。
そして、あまりにも一生懸命に気持ちを伝えようとしてマズイ出来事が起きた。
なんと、オレ。

涙がにじんできたのだ。

マンガにも感情移入して泣けるオレだが、ここは泣くほどの場面ではないと思う。
気持ちを伝えるのが難しくて、一生懸命に話しているうちに胸が熱くなったのだ。
もちろん向こうは泣いてなどいない。

あぁ・・・恥ずかしいなぁ・・・。
何とか一通りお礼を言ったオレ。
向こうは少しビックリしている。
そりゃ、仕事仲間とも言える大の大人が突然、泣きそうになってるのだ。
恥ずかしさと、今にもこぼれ落ちそうな涙のせいで。
あれだけ熱いメッセージを伝えたオレの次の言葉はこれだった。

オレ:「時間がないんで、僕行きます。」

そうしてそそくさと帰っていったのだ。
向こうは完全にわけがわからない様子に見える。
まあいい、感謝の気持ちは伝わったはずだ。

そして観光を済ませたオレは日本に帰った。
ようやくいつもの日常に戻る。
この旅で得たものは大きい。
それを今後、どう生かしていくかはオレ次第だろう。
でも、少なくともオレは何らかの成長があった気がする。
この機会を与えてくれた上司にもお礼を言おう。
ところが、そんな上司から返ってきた言葉はこれだったのだ。

上司:「欠席者が出たから、シンガポールのトレーニングにも行ってくれるか?」

と、いうわけで今シンガポールにいる・・・。

続く...


今日の一言

ホントにSee youだ・・・

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