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起業準備

〜 来たる異国の地(2) 〜



月曜日の朝。
いよいよ研修が開始される。
今回の出張は、ある自社製品に対する知識を深めるためのものだ。
アメリカの講師を招いて、香港オフィスに各国からの受講者が集まる。
その製品に技術的営業として関わっているのは、日本でオレを含めて2人。
そこでTOEICの点数が考慮され、日本からはオレのみが受講することとなったのだ。
思わぬところでTOEIC受験が活きた。

正直言ってオレは最近、資格に対して疑問を感じている。
TOEICにしてもペーパーテストのテクニックさえあれば、ある程度得点は伸びる。
そんなテストで点を高くしたところで、一体何の意味があるのだろうか。
というような考えに至っていた。
だが、結局今回のチャンスを掴んだのはオレ個人の実力ではなくテストの得点の力だ。
場面によって、やはり資格というものは大きな力を持つのだと再認識した。

そしてオレのような「点を取るコツ」を知っている人間にとって、問題はここからだ。
点を取る力ではなく、実際の英語力が試されるわけだ。
テストでしか結果を出せないような奴は、簡単にメッキがはがれる。
さぁ、オレは一体どちら側の人間なのか?

朝、香港支社に向かう。
そこで最初に会ったのは香港支社勤務の社員の一人。
挨拶をして、握手を交わした後、研修室に案内された。
ここまでは問題ない。
だって「ナイストゥーミーチュー」しか喋ってないから。
そして案内された席に座ったところ、向かいには既に一人の男性がいた。

オレ:「ナイストゥーミーチュー」

オレはまた握手を交わし、席についた。
なんだ、簡単じゃないか。
これなら研修が終わるまで乗り切れそうだな。
そう思ったとき。
向かいの男性が話しかけてきた。

男性:「アイム xxx xx xx フロム ォーストレイリァ xxx xxx 」

聞き取れないところは全てxxxと記している。
・・・たじろいだ。
オレはたじろいだ。
どうやら相手は自分の名前と、自分がオーストラリアから来たと言ったっぽい。
な、何か返さなくては。
とりあえずオレの名前を言う。

オレ:「ア、アイム XXX(自分の本名)」


ボロッ


オレ:「アイ・・・・カム フ、フロム・・・ジャパン」


ボロボロッ


もちろん、メッキがはがれ落ちる音だ。
相手の言っていることが半分も聞き取れない。
たまに分かりやすい単語が聞こえるだけ。
また、自分が喋ろうと思っても、全く文章が頭に浮かばない。
とっさに考えても、中学生レベルの文法すら出てこないのだ。
相手もそれを察したらしく、深く突っ込んでこなかった。
ああ、こんなことじゃ先が思いやられる・・・。

それからというもの。
各国からの受講生が来るたびにオレはしどろもどろだった。
香港支社の別の社員。
インドから、韓国から、シンガポールから。
そしてアメリカからの講師との挨拶さえ・・・・。

そして間もなく研修がスタートした。
・・・・嫌な予感は当たった。
アメリカ人の講師がペラペラ〜と何やら喋った後。
受講生が端から一人ずつ立ち上がって自己紹介を始めたのだ。
こういう研修にとっては付き物。
やるんじゃないかなぁ、と思っていたのだ。

みな、まず自分の名前と国を言う。
その後に、この製品にどれくらいの期間、どう関わったかを喋っているようだ。
今から考えれば、文法など気にせずに
「フォー・ワン・イヤー(一年間)」
とか言っとけばよかった。
しかし、人間テンパるとその言い回しすら思いつかないのだ。
どうしよう。
一年間ってどう言うんだっけ・・・・。
ああ・・・・順番が回って来る。
・・・・し、しょうがない。
もう何でもいいから、頭に思いついた文章を喋るしかない。

順番が来て、何とか名前と国を言った後。
オレの口から出た言葉は。

オレ:「I'm ... not good at English... Sorry....」

そう。

僕は英語が苦手です。ゴメンネ。

と言うのが精一杯だった。

続く...


今日の一言

みんなが慰めてくれた・・・

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