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起業準備

〜 安上がりな男 〜



明日は朝から静岡での仕事があるため今日のうちに移動している。
さて、今日も安いホテルでの一泊か。
オレは不必要に豪勢なホテルに泊まるのは落ち着かない。
なぜならオレはいつも個人単位で採算を計算する癖があるからだ。
会社がオレに払う給料、オレが貢献した売上、オレが使った経費。
これらを換算してマイナスになるようではオレがここにいる意味が無い。
どれだけ頑張ろうとも赤字の男がでかい顔はできないのだ。
だから基本的に経費を節約したい、という意識がオレにはある。

しかし、ここ最近オレは必要以上にオンボロなホテルに泊まっている気がする。
まあそれにはある理由があるのだ。

以前、東京へ出張したときである。
普通であればもちろん日帰りなのだが、この日は部公認の飲み会があった。
遅くまで飲めるようにと会社が一泊の許可をくれたのだ。
異国の地で倒れるまで飲める。
オレは喜び勇んでその日を迎えたのだ。
だが、ここでオレの知らなかった事実が一つ。
出張組は全員ホテルの予約をしていた。
オレはしてない。
なぜ?
飲む量とか時間が制限されるからだ。
限界まで飲み会についていって終わった途端に最寄のホテルで寝る。
この完璧なプランを遂行するためにはホテルの場所を決めるわけにいかない。
オレは出張組の中でたった一人ホテルの予約をせずに東京に乗り込んだ。

その夜、新橋で盛り上がり、2次会、3次会も終わった。
みんなバラバラと帰路につきはじめる。
さて、オレもそろそろホテルを探すためにみんなと別れた。
今夜はどこに泊まろうか。
この着の身着のままの旅人気分が好きだ。
フラフラと歩き、たまたま目に入ったホテルに泊まる。
泊まる・・・・泊まれない?満室??
マジで?
ホテルってそんなに間単に満室になるんだ・・・。
別のホテルに行く。
また満室。
これ、やばいな。
1万円以上するようなホテルなら空いている。
しかし、飲み会を終えたオレにそんな所持金は無い。
どうする。
どうするんだ、オレ。

オレが取りうる選択肢など既に限られていたのだ。
そう、噂に聞くカプセルホテル
せっかく会社の金でホテルに泊まれるというのになぜ?
なぜにカプセルホテル!?
悔しかったオレは普通よりも1000円高いVIPルームに泊まってやった。

初めてのカプセルホテル。
オレが心の中でつぶやいた言葉はかのガガーリンを思わせる。

カプセルホテルは本当にカプセルだった。

4つんばいになって入ったカプセルの中はとても臭い。
さらに上や隣からイビキが聞こえてくる。
まさに囚人並みの劣悪な環境だ。
また共同シャワーは一回に一人だけ。
誰も使っていないタイミングを見計らって入らなくてはならない。
こんなバッドモーニングは本当に久しぶりだ。
貴重な体験をありがとう、カプセルホテル。
今度からホテルはちゃんと予約するよ。

しかし、後日。
会社のイベントで全社員が一同に集まる機会があった。
そこでオレのところに経理担当の人が話し掛けにきたのだ。

経理:「ukkyoさん。なぜカプセルホテルに泊まってたんですか?」

・・・そう。
会社の経費で精算するには領収書を提出しなければならない。
オレが出した領収書にはさん然と「カプセルホテル」の文字が輝いていたのだ。
瞬く間にオレは経理で噂になったらしい。
他の人は1万円以上するようなホテルに泊まっている中。
オレは半額以下のカプセルホテル。
経理からすれば非常に安上がりな男として大評判になったらしいのだ。

そうなると誉められたら張り切るオレのこと。
いや、そもそも誉められてるのかどうかも怪しいのだが。
それでもオレは経理の期待に応えるという新たな喜びを覚えてしまったのだ。
いつのまにかオレはホテルを探すとき安さ優先で探すようになった。
少しくらい汚くても、冷蔵庫が無くても、経理でのオレの評判が上がるなら。
ベッドが狭くても。
部屋がその狭いベッドだけで窮屈だったとしても。
それでもオレは人の期待に応えたい。

続く...


今日の一言

なんかまた頑張る方向間違ってるな

ハヤシヤ
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