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中盤戦

〜 双頭竜 〜





来る日も来る日も本を読みながらテストプログラムを組む毎日。
その途中いくつか出された課題。


・ウインドウ内のクリックしたところに円を描く。

・計算機の足し算機能だけ。


といったものである。
課題ができると報告して簡単にテストしてもらう。
普通に動いてれば次の課題を考えてもらう。
そんな流れでもう1ヶ月が過ぎるころ、いやでも気づくことがあった。

課題を出してくれている、この先輩である。
なんかすごい嫌そうなのだ。

「もう忙しいんだから勘弁してくれ。」
という雰囲気がありありと感じられる。

断っておくがこの先輩はとてもいい人だし、それは他の誰もが知っている。
でも何か人生そのものに疲れを感じているような、

「もう新人教育はやめさしてくれ。」

とでも言わんばかりの雰囲気がある。

でも今オレには頼れる人はこの人しかいない。
なんとか食い下がって少しでも多く教えてもらわなければ。
そう思い、申し訳ない気持ちをかき消して次の課題をもらいにいく。

「ブラウザで書き込める掲示板」

次の課題だそうだ。
ブラウザを使うなんてやったことが無い。
なんか今までとはがらりと方向性が変わった気がする。
が、Java言語というものはどうやらこっちの方面がメインのようだ。

今までやってきたことは意味があったのだろうか?

とかそういう後ろ向きな考えは自分が意識するよりも早く即座に頭から消去するのが得意技だ。
削除後、ゴミ箱も空にした。

さぁ、頑張って前向きに掲示板作成といきますか。
しかし、それにあたって読めといわれた本がまたもや3冊ほど・・・・。
こうなってくるとこっちも慣れたものだ。

男塾名物「斜め読み」である。(男塾は関係ない)

ことあるごとに本が渡されるので、最初の頃は全部覚えるようなつもりで読んでたのだ。
でも最近はここはいいかな、と思ったら読み飛ばす。

良く解釈すれば情報を取捨選択するスキルがあがった。
悪く解釈すればもう本当に勘弁して欲しかったのだ。

この本のこの辺を覚えておくとこんなメリットがある。
とか将来的な展望が感じられればマシなのだが例の先輩が

「もうやめさしてくれ。」

のノリで本を渡されるのだからこっちも

「もうやめちゃおうかな。」

となってしまう。

それでもプログラマーへの道はここを避けることは出来ないのだからやらなければならない。
そういうジレンマの中での苦肉の策「斜め読み」なのだ。
とにかくやるしかない。


と、そんな折。
新たな研修生が入ってきた。
聞くところによるとこの会社には頻繁に研修生が入ってくるらしい。
さらに聞くと、だからといって社員の数が増えているかというとそうでもないらしい。


・・・・・どっちだ?

一瞬、頭の中に2つの可能性が交差した。


1 研修してもあんまり社員にしない。
2 社員が次々に辞めていく。


・・・・・。

1の場合、会社として求める質が高いというのはもちろんいいことなのであろう。
ただ、そのお眼鏡に自分がかなわなければならないというつらさはある。

2の場合・・・何も言うことはない。そんなのいい会社なわけがない。

オレの頭はこの2つの可能性が浮かぶや否や次の暴挙にでた。


2の可能性を削除。
   ↓
ゴミ箱を空にする。



オレは歩き始めた。
いくら分厚い本を渡されても、嫌そうに課題を出されても、
高い技術を身につけなければこの会社は雇ってくれない。

隣の後輩はすでに例の分厚いリファレンス本「独習Java」を渡されたようだ。
オレも負けられない。


夏の昼下がり、2人のJava研修生はライバル心むき出しで一心不乱に本を読む。
こいつかオレ、2人とも入社できることはないだろう。
オレはもう後が無い、こいつには悪いが先輩後輩の付き合いも3ヶ月だけだ。

と、その時。


ガタン!


大きな物音に驚いて後輩の方に首をやると。
眠気で意識が飛び後輩の首が急降下、机に激突したようだ。


「ホワイトサイクロンだ・・・・。」


自分より派手なホワイトサイクロンを見せてくれた彼を好きになれないわけがなく
オレは妙な親近感を覚えてしまった。

こいつと頑張ろう。
こいつと一緒に社員になろう。

おそらく後輩も同じことを思ってくれていただろう。
等身大の彼の全てをさらけ出したようなホワイトサイクロンで2人の距離は一気に近づいたのだ。


毎日昼過ぎになると決まって2人はホワイトサイクロン
獲物に襲い掛かる竜の頭のようにガクンガクンと急降下する首。

しかし、いまやオレとこいつは他人ではない。
俺たちは2匹の竜ではなく、一匹の双頭竜なのだ。

続く...


今日の一言

んなわけねーだろ



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