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確定!続・大阪物語(第12部)

〜 最後(?)の晩餐 〜



母の通夜と葬儀には会社からも派遣先からも何人かの人が来てくれた。
香典を届けてくれた方も合わせると会社がらみでは20人弱の人たちが何らかの形で母の冥福を祈ってくれた。
とてもありがたいことだ。
本当にありがたいことだ。

葬儀が終わったオレは徐々に仕事に頭を切り替える。
本当は7日間の休みを取れるらしいが派遣先の事情もある。
そんなに休むわけにもいかない。

合計3日会社を休むことになるが、葬儀の次の日のみ、休みを取らせてもらうことにした。
まだ電車の中とか、歩いているときなど時間をもてあました瞬間に母を思い出し涙が流れるからだ。
もう人前で泣くことになんのためらいも無くなってしまったオレは、別にダラダラと涙を垂れ流しつつ仕事をしても構わないと思っている。
しかしさすがにそれは周りがひいてしまうと思ったわけだ。
そこで最後の一日、家でたくさん泣いておこうと思ったわけだ。

ただせっかくの休みなので何もしないのはもったいない。
会社から送られる花代を立て替えていたので、それを返してもらうのと個人的にお礼が言いたくてお菓子を持って会社に行くことにした。
社長にしても通夜に来てくれたし、会社から規則といえど花代も出た、香典も出た。
今は他意なく、とにかくお礼が言いたい気持ちであった。

オレ:「今から会社に行きますんで。」

社長:「わかりました。私も少し真剣な話があるので。」

オレ:「・・・・・。」


今日なのか?
Xデーは今日なのか?
突然の話の展開の速さに気が動転するかと思った。
しかしそれはなかったみたいだ。
ここ数日、オレの心は最高速で動き回っていたからもう疲れていたみたいだ。

オレ:「わかりました。」

静かに返事をして電話を切る。
特に何の心の準備もしないままオレは会社に向かった。


会社に着き、数人の人達にそれぞれお礼を言いに行った。
母親の通夜、葬儀は大阪で行ったのにも関わらず京都から何人も来てくれた。
それが本当にうれしかったし、ありがたかった。
最後に社長の下へ行き、やはり心からお礼を言った。

一通り感謝の気持ちを伝え終わると社長は例の「真剣な話」を持ち出した。
ご飯でも食べながら、ということになって近くの和食の店へ。

オレは全くひるんでいなかった。
もう辞めると伝えるつもりだ。
いつまでもその時期を遅らせることもしないだろう。
できるならば契約が切れる9月末でスッパリと辞めようと思っていた。
母の死を目の前にしたばかりのオレにとって、今は時間の大切さが普段以上に重く感じられるのだ。

話を切り出したのは社長だ。
オレが今の仕事に満足していないと聞いていると言う。
そうですね、と答えた。
すると社長がまた言う。
でも、だからといってやりたい仕事に就けるかどうかは難しい問題だ、と。
そうですね、と同じく答えた。
出番待ちの性質を持つオレはとりあえず社長の話が終わるのを待った。
オレには余裕があるからだ。
なにせ以前のように給料を上げてくれというような主張はないからだ。
オレが望むのはただ一つ。
会社を辞めたいというその一言に尽きるからだ。

大体社長の話が出尽くしたとき、オレはそれを告げた。

オレ:「できれば9月末くらいに辞めようと思っています。」

社長:「少し聞いていました。」


やはりか!

いや、いいんだけど。
その方が話も早く進んでいい。
もともとオレも社長に話が伝わるのを狙っていたところもある。

間をおかず、オレは話した。
ことあるごとにこの場所で書いてきた思い。
自分が本当に燃焼できる仕事を探してみたいこと。
オレにはまだまだはるか遠く及ばない目標が、夢があること。
そしてその夢を得るために相当大きなものでも失う覚悟があること。

こうして社長と2人で話すのはもう最後かもしれない。
しかし最後に社長は、社長であった。
オレが予想していなかった懐の深さを見せてくれたのだ。
社長は言った。

自分の目標があるのなら、やってみればいい。
そのためにうちの会社が利用できるのならしてくれればいい。
得意先に就職したいのなら紹介もしてあげようと思う。

どれもこれも耳を疑う言葉だ。
オレは少し社長を見直した。
それと同時にうちの会社そのものに対する見方も少し変わった。
もう少し残ってもいいかな、という気持ちがほんの数ミリ生まれたのは確かだ。
しかし、オレはもうそういった情に流されない。
オレは止まってはいけないのだ。
数日前、非常に大きな悲しみを味わったオレはまた一つ強い信念を手に入れた。

オレは静かに社長に聞いた。

オレ:「今日から就職先を探し始めてもいいですか。」

いいですよ、と社長は言った。

続く...


今日の一言

男ってやつっすか?

意味はない
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