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名古屋城は少し危険(後編)




名古屋城に到着したのは朝6時ごろ。
車を近くに止めて城の前へ。

もちろん門は閉まっている。
だが警備は姫路城ほど厳重ではなさそうだ。

オレ:(いける)
悪友A:(いける)
悪友B:(いける)
友人C:(????)

悪ノリ3人組には前日の反省などひとかけらもなかった。
たまたまうまく逃げ切れたから次も大丈夫という犯罪常習者にありがちな精神状態だったのだろう。

「じゃあ、入ろうか。」

3人は口を揃えて言った。
いや、本当は一握りの恐怖心はあったのだ。
大事になったらどうしようかと怯える気持ちは確かにあった。
しかし誰一人やめようとしない。
オレはその理由を知っている。

世の中には信じられないような集団犯罪を犯す若者がいる。
しかし、たいてい始めはちょっとした軽犯罪程度だったりするのだ。
それが何ゆえエスカレートするのか?

もともと集団というのは個の集まりである。
それは個々の意思の集合である。
個々の目的に沿った行動を初めはしているのだ。
だが、ここである個人がもう止めなければマズイと考えたとする。
いや、時には全員が感じていることもある。
しかしそれを誰かが口に出すまではそれは表面上集団の意思に反することだ。


それを誰が最初に口にするか


誰が臆病者の役割を演じるか


多くの場合、誰もそんな勇気はなくしてしまっているのである。
いつしか目に見えない集団の意思なるものが生まれているのだ。
それは個々の意思を無視して延々と膨張し続ける。

オレたちも同じであった。
戦時中の特攻隊の心境で、お国のために名古屋城へ突入寸前であった。

しかし、ここにまだ洗脳の施されていない、フレッシュな頭を持った人間がいた。
友人Cである。
それはオレたちにとってまさに神の最後の救いの手であった。

友人C:「やめとけよ、オレは行かないぞ。」

本当の勇気を持つ男である。
友人Cはまたもオレたちに嫌われるリスクを背負ってまでオレたちを正しい方向に導こうとしている。
お前達は洗脳されているんだ。
絶対に普通じゃない。
冷静になれ。

いろんな意味を含んだ一言だった。
それは本当のやさしさであり、賢さであり、強さなのだ。

そしてオレたちは即座にこう返したのであった。


「じゃあお前だけ残っとけよ。」


・・・・・・・そう。
気付いてないのだ。
本当のやさしさを、賢さを、強さを。

処置なし。

オレたちはスルスルと柱を登り石垣を上る。
高さ3、4メートル、そう難しいことはない。
オレたちはすぐに中に飛び込んだ。

友人Cを置いて。

しかし若者達は何故、こうも意味のないことに一生懸命になるのだろうか。
中に入っても何もない。
人に迷惑をかけるのは心苦しいため器物破損などはしない。
できることはただ辺りをブラブラ歩くだけ。
そんなオレたちが見回りの警備員に捕獲されるまで5分とかからなかった。

誰かが自転車でこちらに向かってきたとき、オレたちには明らかにまずい予感が走った。
どうしていいかわからないオレたちだったが、以心伝心の3人組はある共通した意識を感じ取った。

(逃げたらかえってマズイ)

オレたちはおとなしく補導されることとなった。
そして生まれつき言い訳がウマいと評価の高いオレの仕事が始まったのだ。
警備員に事務所に連れて行かれ、案の定尋問が始まった。
今ここで何をしていたのか、その質問にオレは


オレ:「酔っ払ってて何も憶えていません。」


シラを切り通す作戦にでた!
本当に言い訳がウマいのかどうか、その議論はここでは置いておこう。
そこからオレと警備員との激しくも強引なバトルが始まったのだ。


オレ:「どうやら昨日からここで酔いつぶれて眠ってたようです。」

警備員:「昨日は何時に入ったんだ。」

オレ:「5時半くらいかな?」

警備員:「5時には閉まるんだよ!」

オレ:「・・・・えと、、3時くらいだったかな・・・?」


そのあまりにも支離滅裂なオレの切り返しはなんと・・・

通じてしまった。

確かに酔っ払っているという証明にでもなったのだろうか。
警備員は本部に電話連絡で伝えた。

警備員:「ええ、ウソはついていないようです。」

念のためオレたちは身分証明書を提示させられ、住所・氏名を記された後釈放された。

大幅なテンションダウンを強いられたオレたちはそれでもこの一連の補導劇に

伝説

という名をつけることでかろうじて自分達を奮い立たせた。

2日間に2つの国宝を汚したオレたちはその後きしめんを食べて岐路につく。
しかしその帰り道、オレたちに予想外の事実が判明した。
通り道にもうひとつ国宝の犬山城というものがあるらしいのだ。

そんなおいしいシチュエーションをオレたちが放っておくはずはない。
オレたちはその犬山城を普通に観光して帰った。

そしてダーツ旅行は終わりを告げた。




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