もう10年以上前のことだ。 あやふやな記憶を辿りつつお話することになる。 あれは高校3年生の夏休みだったろうか・・・。 当然のようにだらしない生活を送っていたオレは必然として眠れない夜を繰り返していた。 毎日昼過ぎに目を覚ますのだから夜12時程度で眠れるわけがないのだ。 みなぎる若いパワーをぶつける場所もなく悶々としていたいつもの一日、夜中3時。 健全な高校生なら夜にしか稼動しない自販機でイケナイ本の一冊でも買いに行くのだろう。 いや、もちろんそれもしたことあるのだが今日は違った。 なにかこう、神からの天啓とでもいうのだろうか。 それとも大多数のその類のサギ師たちと同じようにただの思い込みだろうか。 あるひらめきにオレは突き動かされた。 こういう突発的衝動は止められない性分だ。 だが、今から思い返すと本当にオレはそのつもりだったのか? それともただの散歩だったのか? ここははっきりしないのだが、とにかくオレは家族を起こさないよう気をつけて家を出た。 皆が寝静まった世界、誰もいない。 「オレはこの世界の王様だ。」 などと昔ドラえもんで読んだストーリーをそのままパクった心境でオレは行く。 その当時オレは自分が通っている高校のすぐ近く、真向かいに住んでいた。 そしてオレはなんの躊躇もなく門をよじ登り、学校に侵入した。 この頃から侵入癖はあったようだ。 学校のグラウンドに出る。 サッカー部を1年生の1学期で一瞬で辞めたオレでも「トンボ」がどこにあるのかは知っている。 トンボ・・・知っているだろうか? 野球部などがグラウンドならしに使う、パッと見て農耕具にも見えるあの道具だ。 当時うちの学校で使っていたものはトンボの先の片側が平ら、反対側がなぜかギザギザしたトンボだった。 普通は平らな方でグラウンドをならすのだが反対側でやってみると、これがまたきれいな波模様になる。 そう、まるで日本庭園の枯山水のように。 「うひひひ・・・・。」 オレはそのトンボを肩に担いで学校の門を乗り越えた。 オレは行く、どんどん行く。 1、2Kmは離れているであろう公園までひたすら歩いた・・・。 <解説> さて、ここまで記憶の断片を並べながらわかったことがある。 やはりオレは最初からそのつもりで家を出たということだ。 確か学校に入ってからトンボを持って出るまでの時間はわずか10分足らずだった。 目的に向かって一直線のオレらしい行動だ。 時に若いって素晴らしいな、と思う。 だって今やったら捕まるでしょ、下手したら。 やりたい気持ちはあるけどできない。 たくさん蓄えた記憶に思いを巡らせ懐かしむしかない。 さて、続けましょうか。 肩にトンボを担いで道路を歩く高校生。 たまにすれ違った車の運転手は一体どういう解釈をしただろうか。 そんなことはさして気にも留めずオレは公園に到着した。 それほど広くはないが滑り台に鉄棒、ブランコなどのある普通の公園だ。 そしてオレは・・・やはり・・・・トンボをかけ始めた!! ギザギザの方で!!枯山水で!! 丁寧にトンボをかけるオレ。 障害物の回りはくるっと円を描くように。 これがまた意外に重労働である。 創作している間に夜は白んできた。 しかし思いつきに人生をかけていたオレが止めるはずもない。 早起きのおじさん数人に目撃された。 でも止めない。 黙々とトンボをかけるオレ。 そして、ついに公園は足を踏み入れるのももったいないくらい、一面枯山水になった。 ここでまたオレが初めからそのつもりだったことを裏付ける事実を思い出した。 オレはこのとき首からカメラをぶら下げていたのだ。 何枚か途中経過も撮影したはずだ。 そして最後、全てが完成した後。 オレはカメラを滑り台においてタイマーをセット。 そして一目散に公園の中央に走りトンボを持って空を見上げる。 そんな後姿を写真に収めたのを覚えている。 ミッションは完了。 オレは悠々トンボを持って帰り学校に返し、そして家でぐっすりと眠りについた。 |